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睡眠時無呼吸症候群(SAS)について

 ■睡眠時無呼吸症候群(SAS)について 十分に睡眠時間を取っているはずなのに日中に眠くなる、ぼーっとして仕事に集中できない、家族からよくいびきを指摘される、などの心当たりがある方はいないでしょうか。 今回は特にそのような方に向けて睡眠時無呼吸症候群について解説します。 【睡眠時無呼吸症候群って?】 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome; SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりすることで体の低酸素状態が発生する病気です。 【睡眠時無呼吸症候群の症状は?】 睡眠時無呼吸症候群では睡眠中に低酸素で体が息苦しくなることで眠りが浅くなってしまい、寝ているのに睡眠不足という状態になります。また持続的な低酸素によって体に慢性的なストレスがかかり高血圧となりやすくなります。そして低酸素に体が対抗しようとして血液の量が増加するため(いわゆる血液がドロドロになる)、血栓ができやすくなったりします。 自覚症状としては以下のものがあります。 ・日中に眠くなる、ぼーっとする ・慢性的なだるさ(倦怠感) ・睡眠中によく目が覚める ・起床時の頭痛 など 睡眠時無呼吸症候群の怖いところは、このような日々の症状だけではなく、高血圧、脳卒中、狭心症、心筋梗塞など心・脳血管疾患が発生しやすくなるところです。糖尿病、脂質異常症などのいわゆる生活習慣病が合併することも多くあります。特に心・脳血管疾患については働き盛りの方の突然死の原因ともなるため睡眠時無呼吸症候群は特に注目されています。 【睡眠時無呼吸症候群の種類、原因は?】 種類は原因により以下の3つに分けられますが、閉塞型が多くを占めます。 ①閉塞型:口や鼻から声帯に至る空気の通り道(上気道)が細くなるタイプです。 肥満の方、首が太くて短い方、あごが小さい方、扁桃の腫れなどのど(喉)の形に問題がある方などがなりやすくなります。いびきに引き続いて無呼吸になる方はこのタイプです。 ②中枢型:呼吸を調整する脳の働きが低下するタイプです。 脳卒中後の方など脳の呼吸を調整する部分に問題があり発症することがあります。 ③混合型:閉塞型、中枢型の両方が関係するタイプです 【睡眠時無呼吸症候群の診断はどうするの?】 睡眠時無呼吸症候群は検査によって睡眠中に10秒以上の呼吸停止や低呼吸が1時間に5回以上ある場合に診断されます。

胃カメラは口から?鼻から? 鎮静剤は使う?使わない?どっち?②

<鎮静剤の使用について> 前回に引き続き、今回は鎮静剤についてのお話です。 前回、胃カメラでは「のど」が刺激され反射で苦しくなるというお話しをしました。 実際、胃カメラはどのように苦しいのでしょうか? 実体験をもとに説明しますと、 口からの場合は舌の根元が刺激されてオエっとしたり、喉頭が刺激されて咳込んだり、食道の入り口を入るときにウっとなったりします。 鼻からの場合には舌の根元には触れないのでオエっとせず、喉頭も刺激されることは少ないのですが、鼻が少しつーんとしたり(インフルエンザの検査などで鼻に綿棒と入れられるのと同じ感じです)、食道の入り口を入るときのウっとする感じはあります。 口でも鼻でも食道に入ってからは、食道や胃を広げて観察するために空気を入れるのですが、この空気でお腹が張って、げっぷしたいような感じになったりします。 また、胃の中でカメラが動く際、胃が押されるような感じがしたり、ゴロゴロうごくような違和感があったりします。 一般的に一番つらいのは「のど」を通り食道に入る時とされていますが、反射の強い私の場合は「のど」を通る時も空気を入れられるのも胃の中でカメラが動くのも全てそれぞれつらいと思ってしまいます。 そのすべての苦痛を和らげてくれるのが鎮静剤です。 つらさを少なくする挿入のテクニックも色々ありますが今回は割愛します。 よく勘違いされる方がいますが、鎮静剤と表面麻酔は全く別のものです。 まず表面麻酔は麻酔薬が入ったとろみのついた液(キシロカインビスカス)を「のど」や鼻の穴に直接注入、塗布する処置です。この表面麻酔が潤滑剤ともなり胃カメラの擦れによる痛みが少なくなり、「のど」の反射も少し軽減されます。 全身への影響は少ないためこれは原則すべての方に行う処置となります。(麻酔薬へのアレルギーのある方は除きます) ただ、これは鼻あるいは口から「のど」に表面的にしか作用せず、食道に入ってからのつらさも軽減されません。 本題の鎮静剤は静脈に針を刺し、鎮静剤のお薬(ミダゾラムやプロポフォールなど)を注射し、意識がぼーっとした状態にすることで「のど」の反射が少なくなり、食道に入ってからのつらさも軽減される、というものです。 この鎮静剤は全身麻酔でも使われるお薬のため過量に使用すると意識が低下するだけでなく心臓や呼吸への悪影響もあるため、きちんと患者さんの状態を

胃カメラは口から?鼻から? 鎮静剤は使う?使わない?どっち?①

  胃カメラの説明をする時、必ず選択していただくのは口、鼻のどちらから入れるか、鎮静剤を使用するかどうかです。 しかし、特に胃カメラを初めて受ける方は胃カメラがどの程度つらい検査かの経験がないため選択を求められても???になってしまうことでしょう。 今回はそのような患者さん向けに選択の助けになるようなお話しをしたいと思います。 <胃カメラの挿入方法(口or鼻)について> 人は舌根部(舌の根本)に刺激があるとオエっとしたり、喉頭部(声帯に近い部分)に刺激があると咳込んだりします。 これは体の中に異物が入ってこないように、あるいは異物を出すためのある意味自然な反応(反射)です。 一方で、胃カメラはこの「のど」の反射がある部位を多少刺激するためどんなに上手な医師が行ってもある程度の苦痛が生じます。 私自身、胃カメラを患者さんにするのは得意でも受けるのは実は苦手です。反射がとても強いためです。 しかし、だからこそ患者さんがどこでつらいのかがわかります。 口からでも鼻からでもどこでつらいのか、できるだけつらくなくするためにはどうすればよいかの経験、ノウハウがあります。 では、口からあるいは鼻からどちらから入れるのが良いのかそれぞれの特徴を簡単に説明します。 ・口からの胃カメラについて 口から入れる最大のメリットはスペースが広いためどんな種類の胃カメラも入れられることです。 例えば、拡大機能の付いた画質の良い太めのカメラや内視鏡手術を行うためのカメラ、超音波装置のついたかなり太いカメラなどです。 このため口から入れる場合にはカメラと処置の道具さえあればどんな検査や処置も可能です。 デメリットは反射が起きやすい部位(舌根部)を通るためオエッとしやすいことです。 ただし口からの胃カメラのつらさはカメラの太さに比例します。 カメラが太ければ太い程「のど」へ接触する面が増えますので刺激が強くなります。 逆に口からでも細いカメラであればつらさは軽減されます。 ・鼻からの胃カメラにういて 鼻から入れる最大のメリットは2つです。舌根部を刺激しないためオエっとしにくいこと、「のど」の観察がしやすいことです。 そしてデメリットも2つあります。細いカメラを使うため画質がやや落ちること、できる処置が限られることです。 昔は鼻からの細いカメラは画質がかなり悪く、患者さんが少し楽になる程度で他のメリット

貧血について~主に鉄欠乏性貧血について~

  女性を中心に、健診結果にて貧血を指摘され受診される方が多くいらっしゃいますが、今回は貧血について、その中でも特に鉄欠乏性貧血について解説します。 <貧血って何?> 血液中の赤血球の中には、酸素を運ぶ役割をもったヘモグロビンという物質があります。このヘモグロビンの濃度が低くなった状態を貧血と言います。 <貧血の症状は?> ヘモグロビンは体のすみずみに酸素を運ぶ役割があります。このため貧血になると全身の臓器が酸素不足となってしまいます。これにより立ちくらみ、動悸、息切れ、めまい、ふらつきなどの症状が起こります。人によっては頭痛や味覚異常、爪の変形などの症状がみられることもあります。 <貧血の原因は?> 大きく以下の2つの原因に分かれます。 ① ヘモグロビンや赤血球がうまく作れなくなる場合 鉄やビタミン類(ビタミンB12、葉酸など)の欠乏、白血病などの骨髄の病気 腎臓の機能低下(腎臓から出される造血ホルモンの減少) 慢性炎症(慢性感染症、膠原病などの自己免疫疾患など) ② ヘモグロビンや赤血球が体から出たり壊されたり消耗してしまう場合 出血(手術や外傷による出血、消化管(胃・十二指腸潰瘍、憩室出血など)からの出血など) 溶血性貧血(自己免疫性疾患などで赤血球が破壊される場合) 肝硬変などの肝疾患 他にも原因は様々ありますが、頻度として最も多いのが鉄の欠乏による鉄欠乏性貧血です。 健診で貧血を指摘された際には、まずどのようなタイプの貧血になっているのか、そしてその原因は何かをしっかり診断することが重要です。次に、最も多い鉄欠乏性貧血について解説します。 <鉄欠乏性貧血とは?> 文字通り「鉄」が欠乏することによる貧血です。健常な人の体の中には約 3~4gの鉄があるといわれています。その3分の2は血液中の赤血球の中に「ヘモグロビン鉄」として存在し、残りの3分の1は「貯蔵鉄」として肝臓などに蓄えられています。鉄分が不足してくるとまず貯蔵鉄が動員、利用されますがこの時はまだ症状はありません。貯蔵鉄が尽きてしまうとヘモグロビンがうまく作れなくなり貧血として症状が表れてきます。 <鉄欠乏性貧血の診断は?> 鉄欠乏性貧血では採血検査でヘモグロビン濃度の低下、鉄の欠乏、貯蔵鉄の低下の所見があれば診断は容易です。問題となるのは鉄欠乏がなぜ生じたかという原因です。その理由は以下に示すように

過敏性腸症候群について

  <過敏性腸症候群(IBS)とは?> 過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)とは、各種検査(大腸カメラや血液検査など)で明らかな異常が認められないにも関わらず、腹痛や腹部不快感を伴って便秘や下痢が続いたり繰り返したりする病気です。「症候群」とついているのは症状が多彩、かつ原因として複数の因子が考えられているためです。日本を含む先進国で多く見られるようになってきており、症状が長く続くことで日常生活に支障をきたしてしまいます。 <過敏性腸症候群(IBS)の症状は?> 主な症状は、腹痛や腹部不快感、そして便通異常です。 腹痛は発作的に起きたり持続的であったり様々で排便によって一時的に軽快することが多いです。 精神的なストレスや食事によって症状が誘発されやすく、睡眠中は基本的に症状がないことが特徴です。 それ以外にも、腹部の膨満感やガスだまり、腹鳴(おなかがゴロゴロ鳴ること)などの症状もみられることもあります。 過敏性腸症候群は便の性状から、下痢型、便秘型、混合型、分類不能型に大きく分類されます。 簡単に説明すると以下のようになります。 ・下痢型:突然おこる腹痛と下痢が主たる症状となるタイプ。 ・便秘型:便秘を繰り返し、便が固く、腹部膨満感を主症状とするタイプ。 ・混合型:便秘と下痢をくり返すタイプ。(便秘の後、硬い排便に続いて下痢になるなど) ・分類不能型:上記の型のいずれの診断基準も満たさないタイプ <過敏性腸症候群(IBS)の原因は?> 過敏性腸症候群の患者さんでは、消化管の運動異常や知覚過敏が起きていると考えられています。1日に1回程度、食べると排便したくなるのは正常の反応で、胃・結腸反射といいます。一方、下痢型の過敏性腸症候群の患者さんでは文字通り知覚過敏の状態となっており、食事の度に排便したくなり、さらに運動異常により普通の排便ではなく下痢になってしまいます。特定の原因は実はまだはっきりはしていませんが、ストレスなどの心理学的な問題(脳腸相関といいます)、腸内細菌の影響などが関与していると言われています。最近では感染性腸炎のあとにも発症することが明らかになっており、免疫学的な異常が関わっている可能性も指摘されています。 <過敏性腸症候群(IBS)の診断はどう行うの?> 診断にはローマ基準という世界的に標準化された診断基準があ

便潜血検査で陽性と言われた方へ

  便潜血検査は大腸がんのスクリーニング検査として行われる検査です。 大腸がんは、通過する便による擦れや腸の運動でがんの表面が傷つくことによって少量の出血をきたすことがあります。多量の出血があれば肉眼的に血便として認識できますが、ごく少量の出血では認識できません。このような肉眼的に認識することができないごく少量の出血(潜血)を検出するのが便潜血検査です。 このため、便潜血検査が陽性の場合、症状が無くとも大腸がんの可能性がありますので必ず精密検査が必要です。精密検査の方法で、最も精度が高いのは 大腸カメラ(下部内視鏡検査) であり、厚生労働省はこの方法を推奨しています。 一方、便潜血検査が陰性でも、大腸にポリープやがんが全く無いとは言い切ることができません。 例えば進行大腸がんでも、10%程度は便潜血検査が陰性となります(偽陰性)。早期がんでは50%程度が偽陰性となります。大腸ポリープに関しては陽性率が低く、便潜血が陰性でも、大腸カメラでポリープが発見されることも少なくありません。 このため「2日間行って陽性は1日だけだった」、「昨年は陽性だったが今年は大丈夫だった」といっても安心はできません。すべて精密検査が勧められます。 当院では苦痛の少ない大腸カメラを行っております。便潜血検査で陽性が指摘された方はぜひ早めに大腸カメラを行っていただくことをお勧めいたします。 ※大腸カメラは事前の診察・準備が必要なためネットでは予約はできません。早めの検査をご希望の方はまずは電話・外来でご相談ください。

ピロリ菌について

  <ピロリ菌はどんな菌?> ピロリ菌は慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、そして胃がんの原因となる菌です。 ピロリ菌は正式には「ヘリコバクターピロリ」(=Helicobacter pylori)といいます。「ヘリコバクター」の「ヘリコ」には旋回という意味があります(「ヘリコプター」の「ヘリコ」と一緒です)。ピロリ菌が含まれる「ヘリコバクター」属の菌には「べん毛」というしっぽのようなものがついており、これを回転させながら移動することからこう名付けられました。 <ピロリ菌が胃の中で生きられる秘密> 胃の中は強い酸性に保たれているため、細菌は住みつくことができないと考えられていました。しかし、1980年代に胃粘膜の中に住み着く「ピロリ菌」の存在が発見されました。実はピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を持っています。これは胃粘液の中にある「尿素」を分解し、アルカリ性である「アンモニア」を発生させます。この「アンモニア」で自分の周りを覆い、胃酸と中和させることにより酸性の胃の中でも生き続けられます。 <ピロリ菌は何が悪い?> ピロリ菌はウレアーゼの他、色々な毒素を産生することが知られており、これにより胃に慢性的な炎症(慢性胃炎)が起きます。慢性の炎症が続くことで胃の粘膜は徐々に荒廃していきます。粘膜が荒廃した状態を萎縮といい、萎縮のある胃炎は萎縮性胃炎と呼ばれます。萎縮性胃炎の状態では胃粘液の粘膜を保護する作用が弱くなり潰瘍ができやすくなります。また、長年炎症や毒素にさらされることで、胃粘膜の細胞が遺伝子レベルでダメージを受け、胃がんもできやすくなってしまいます。ピロリ菌が感染しているからと言って必ず胃がんになるわけではありませんが、胃がんになった方の実に99%にピロリ菌の感染を認めたという報告もあります。 <ピロリ菌はどのように感染するの?> ピロリ菌は食べ物や飲み物、唾液などを通して口から感染します。ただし、成人となってから感染することはほとんどなく、免疫力の発達していない乳幼児期に感染しやすいといわれています。感染経路としては上水道の発達していなかった昔には井戸水が原因と考えられていますが、上水道の発達した現在では家族内感染の可能性が指摘されています。つまり、ピロリ菌を有する親御さんが口移しで子どもに食べ物を与えるといった行為に関しては、ピロリ菌を感染させる可能性があると