ピロリ菌について

 <ピロリ菌はどんな菌?>

ピロリ菌は慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、そして胃がんの原因となる菌です。
ピロリ菌は正式には「ヘリコバクターピロリ」(=Helicobacter pylori)といいます。「ヘリコバクター」の「ヘリコ」には旋回という意味があります(「ヘリコプター」の「ヘリコ」と一緒です)。ピロリ菌が含まれる「ヘリコバクター」属の菌には「べん毛」というしっぽのようなものがついており、これを回転させながら移動することからこう名付けられました。

<ピロリ菌が胃の中で生きられる秘密>
胃の中は強い酸性に保たれているため、細菌は住みつくことができないと考えられていました。しかし、1980年代に胃粘膜の中に住み着く「ピロリ菌」の存在が発見されました。実はピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を持っています。これは胃粘液の中にある「尿素」を分解し、アルカリ性である「アンモニア」を発生させます。この「アンモニア」で自分の周りを覆い、胃酸と中和させることにより酸性の胃の中でも生き続けられます。

<ピロリ菌は何が悪い?>
ピロリ菌はウレアーゼの他、色々な毒素を産生することが知られており、これにより胃に慢性的な炎症(慢性胃炎)が起きます。慢性の炎症が続くことで胃の粘膜は徐々に荒廃していきます。粘膜が荒廃した状態を萎縮といい、萎縮のある胃炎は萎縮性胃炎と呼ばれます。萎縮性胃炎の状態では胃粘液の粘膜を保護する作用が弱くなり潰瘍ができやすくなります。また、長年炎症や毒素にさらされることで、胃粘膜の細胞が遺伝子レベルでダメージを受け、胃がんもできやすくなってしまいます。ピロリ菌が感染しているからと言って必ず胃がんになるわけではありませんが、胃がんになった方の実に99%にピロリ菌の感染を認めたという報告もあります。

<ピロリ菌はどのように感染するの?>
ピロリ菌は食べ物や飲み物、唾液などを通して口から感染します。ただし、成人となってから感染することはほとんどなく、免疫力の発達していない乳幼児期に感染しやすいといわれています。感染経路としては上水道の発達していなかった昔には井戸水が原因と考えられていますが、上水道の発達した現在では家族内感染の可能性が指摘されています。つまり、ピロリ菌を有する親御さんが口移しで子どもに食べ物を与えるといった行為に関しては、ピロリ菌を感染させる可能性があると考えられ注意が必要です。

<ピロリ菌の検査はどのように行うの?>
胃カメラを使う方法と使わない方法があり、胃カメラを使う方法には、病理検査や迅速ウレアーゼ法があります。胃カメラを使わない方法では、尿素呼気試験、血液や尿の抗体検査、便中抗原検査があります。検査にはそれぞれ特徴があり、患者さんの状況(内服薬や内視鏡所見など)により適切な検査法を選ぶ必要があります。ただし、ピロリ菌の検査を保険適応で行うためには胃カメラで「慢性胃炎の所見があること」を確認することが必要です。

<ピロリ菌が見つかったらどうすれば良い?>
ピロリ菌は胃潰瘍や胃がんなどの原因となるため見つかったら早めに除菌することがおすすめです。除菌することで胃潰瘍や十二指腸潰瘍のリスクが大きく低下する他、将来的な胃がんのリスクも下げることができます。除菌成功後に胃がんが発見されることもありますが、その多くは除菌前にすでに萎縮が進んでしまっていることが多いと言われています。このため萎縮が進む前の早い段階で除菌を行うことが重要です。初めての胃カメラは早ければ早い方が良いと外来で説明するのはこのためです。

<ピロリ菌の除菌はどのように行うの?>
3種類のお薬(抗生物質2種類+胃酸を抑える薬1種類)を朝夕2回、7日間服用するだけです。ただし除菌の成功率は100%ではなく、およそ80~90%程度と言われています。最初の除菌(一次除菌)で失敗した方は保険診療でもう一度だけ除菌(二次除菌)を行うことができます。二次除菌でも失敗した方の除菌は三次除菌といいます。保険診療では行うことができないため希望する方には自費診療(全額自己負担)で行われています。
除菌に成功した後も、胃がんのリスクは低下するものの残りますので年1回程度を目安に内視鏡検査をお勧めしています。

<除菌後の再感染はない?>
再感染の可能性はゼロではありませんが、非常に稀です。ただし、除菌の判定が正しく行えていなかった場合などもありえますので、再感染や再燃の兆候がないかどうかといった意味でも定期的に内視鏡で経過観察を行うことが重要です。

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